その不在ゆえに存在が際立つような選手がいる。この北のクラシックにおいて、ファビアン・カンチェラーラの不在は声高に喧伝され続けた。
しかしそれも、ツール・デ・フランドルが始まるまでのこと。アレクサンダー・クリストフが勇猛果敢な追走劇の果てに、オウデナールデで前年パリ〜ルーベ覇者のニキ・テルプストラをスプリントで打ち破ったその瞬間、勝者への賞賛は「今、ここ」にだけ注がれる。ひとたび北のクラシックが熱狂すれば、たらればの入る余地などまったくないかのようだ。
7月末のパリ・シャンゼリゼで黄色いジャージを着た男が、最後のロードレースに北の地獄を選ぶというのは、この20年間考えられもしないことだった。それも結果を残すための走りをするという。これまで様々なヴェロドロームで、様々な栄光を手に入れてきたサー・ブラッドリー・ウィギンズだが、ルーベのヴェロドロームで石塊のトロフィーを掲げることは叶わなかった。だがその高潔さと意志は、永遠に語り継がれることだろう。
イタリアのパリ〜ルーベでいみじくも勝利したズデネク・スティバルにこの日千載一遇のチャンスが巡ってきた。チームメイトのイブ・ランパールトとフレフ・ファンアフェルマートの2人が先頭に飛び出したところで、このチェコ人のシナリオは描かれたかに見えた。シエナでファンアフェルマートのやり方はわかっている。あとは、ランパールトに合流するタイミングを見計らうだけだった。
その刹那に飛び出したジョン・デゲンコルブを追わなかった一瞬の判断が、フィニッシュライン上の一瞬の差、しかし永遠に埋まることのない差につながった。泥の上で数々の栄光を手にしてきたクロスマンは、石の上の栄光にまだ見放されたままだ。
プリマヴェッラとクラシックの女王。美しくも苛烈な女傑のキスを両頬に受けたジョン・デゲンコルブは北のクラシックの王様となる。
その不在ゆえに存在が際立つような選手がいる。パリ〜ルーベが終わった今、それはトム・ボーネンに他ならない。もし彼がいたなら、エティックス・クイックステップの北のクラシックは、表彰台のもうひとつ高いところに立てただろうか。否、ひとたび北のクラシックが熱狂すれば、たらればの入る余地などまったくない。勝者は今、ここにしか存在しない。
1 | John Degenkolb (Ger) | Team Giant – Alpecin | 5:49:51 |
2 | Zdenek Stybar (Cze) | Etixx – Quick-Step | |
3 | Greg Van Avermaet (Bel) | BMC Racing Team | |
4 | Lars Boom (Ned) | Astana Pro Team | |
5 | Martin Elmiger (Swi) | IAM Cycling | |
6 | Jens Keukeleire (Bel) | Orica GreenEdge | |
7 | Yves Lampaert (Bel) | Etixx – Quick-Step | +7″ |
8 | Luke Rowe (GBr) | Team Sky | +28″ |
9 | Jens Debusschere (Bel) | Lotto Soudal | +29″ |
10 | Alexander Kristoff (Nor) | Team Katusha | +31″ |