2022年は春から仕事も住む場所も、環境ががらりと変わったけれど、時間に余裕のある日も増えてきて、森の中のような家で本を読むようになったのは嬉しい変化だった。年末の大掃除にと引っ越して以来手つかずでいた本棚周りも大きく手を入れて、改めて読んでいない本の多さにも驚いたのだけれど……。
2022年に読んで良かった本を、思い出せる範囲で残しておく。2023年はもう少し読書メモのような形で、残しておけるようにしたいな。
今をときめく書き手たちが腕を振るう雑誌。よくあるビジネス書と違って押し付けがましくなく、こちらの気付きを尊重してくれるような書き方で、そして筆者たちの文章が軒並みよい。この号だったと思うけれど、永井玲衣さんの寄稿がものすごく良くて、その後著書も買ってしまった。雑誌のひとつの可能性を見せてくれた一冊。富士見町のMountain Bookcaseで購入。この書店が近所にあることはなんと幸運だろう。
「本屋さん本」、なるジャンルがあるのかはわからないけれど、最近よく書店の棚で見かける気がする。この本もそんな本かなと思って手にとったのだが、ぱらぱらと見たページから断片的に覗いただけの文章がすでに素敵で、買い求めたのだった。独立系書店のさきがけでもあるブックスキューブリックというお店も知らず、そしてこの本も広く読まれているものであることも知らないままに読んだが、すごく沁み入る、よい本だった。もう5年も前の本だという。山口出張の際に足を伸ばして福岡までこの書店を訪れようとしたが叶わず。ブックオカと合わせて、2023年の行きたい場所リストに入れている。この本は小淵沢のBOOKS&CAFEで購入。
「本屋さん本」とは違うのかもしれないけれど、夏葉社の島田潤一郎さんの「古くてあたらしい仕事」もまたいい本だったことを思い出す。
2022年になっても、僕はほとんど栗城史多さんという人を知らないでいたのだけれど、どこかで誰かが(っていうのはホント良くないな……)この本を激賞していたのを見て、読みたいと思ったのだった。ほとんど前知識が無い中で、だからこそノンフィクションの文章による迫る描写と、徹底した取材の重要性というものがずんと響いた。そしてノンフィクションというジャンルにすごく惹きつけられた。Mountain Bookcaseで取り寄せてもらった。
今年のツール・ド・フランスでは毎日ポッドキャストを配信し、それなりに好評をいただいたのもあり、書籍化を目指していた秋に折よく発売され、読んだ本。結局のところ、まだ書籍化出来ていないが(2022年末時点でまだあきらめていない……)、ジャパンカップに合わせて #GRで撮るツール・ド・フランス の制作・販売をする上で指針となった本。ひとり出版という形態に憧れはあるけれど、さてはて。
これが2022年のベストブック。静かにして雄弁で、とにかく素晴らしい自転車本、だけれども自転車の本という枠に収まらない青春の覚書きでもある。あまりに感銘を受けたので、この本に関してはまた別に書きたいと思う。自転車に興味がある人はもちろんだけれど、自分のような自転車の楽しみ方が一巡した人間、あるいは一巡しそうな人にこそ読んで欲しい。最高の本です。新宿のBOOK 1stで購入。
著者の安達さんの「毛布」も購入し、まだ読んでいないけれどじっくりと読むのが楽しみ。これは出張先の山口市のブックマンション「HONYAらDO」でたまたま巡り合わせて、求めたもの。リアルな書店の意味ってこういうところにある。
LA FRANCE SOUS NOS YEUX
13年ぶりにツール・ド・フランスを訪れてみて、何よりもフランス社会の変化を肌で感じたが、今のフランスについて包括的に書いた日本語の本が存在しないのが2022年なのであった。書店に旅行関連の本や、海外文化についての本を置く棚が減っていたのを目の当たりにしたし、そうでなくても、フランスはもはやトレンドではないようだ。フランスという国について2020年代になって「パリジェンヌのライフスタイル」「パリ、カフェ巡り」「パリからの小旅行」以上のことを書いてあるような骨太な本はほとんど出版されていないように見えた。
帰国前に1日パリで書店巡りをした理由のひとつは自転車関連本を漁ることだったが、同時にフランス人が書いた今のフランスについての本を読みたくもあった。ベストセラー棚にあった(そして帯には2021年の最高本、と書いてある……)こともあり、広く読まれている本だとは思うのだけれど、内容も一般のフランス人でも驚くような統計やデータなどを駆使して今のフランス社会を概観するもののようで興味深く、レアールのfnacで購入した。……がフランス語で読むのが億劫でまだそこまで読めていない。。これは2023年春までの課題図書ということで。
ちなみにアメリカという国に興味を持ったときに、ひとつ助けになったのは「地図で読むアメリカ」という本だった。こういう本の、フランスバージョンが読みたいのだが……どなたか心当たりないでしょうか。
デス・ゾーンに始まるノンフィクション熱の高まりから手にとった。緻密な取材の重み、そしてそれを積み重ねていく先に開ける文章のほとばしり。ノンフィクションに惹かれている。
これも名高いノンフィクション。水産には少なからぬ興味があるが、この本を読んでいくつか合点のいくところもあった。日本各地の水辺のリアルが描かれていて、またストーリーとしての語り口が秀逸で、やはりノンフィクションに引き込まれる。知らない日本が、知らないままでいられた日本が変わる。
POTTERING SUKUMO
ポタリング宿毛。これは本ではなく、高知県宿毛市の観光促進フリーペーパー。自転車に力を入れる宿毛市(今年はJCLレースを開催、市長は昨年の野辺山シクロクロスにも参加するほどのサイクリスト)らしく、まったりとしたサイクリングであるところのポタリングでこの地域の魅力を訪れようという冊子だが、大変作りが良く、編集が効いていて読み込んでしまった。あんまり大きい声では言えないが、こうした観光促進冊子は内容やレイアウト、デザインなどで見る気を減じるものが多いのだが、この冊子はとてもいい。vol.2とある通り2号目で、1号目は宿毛滞在時に探したけれど見つけることが出来なかった。読みたい。
これも凄まじい本だった。原著は2000年とのことだが、今の世の中にこの本に再び息吹を与えたヤマケイ文庫にはただ拍手を贈るほかない。読んだのは2021年だったかもしれないが、人生の大事な一冊になったのでこの機会にピックアップしておきたい。川に生きる人間の集合的叡智と、個人的述懐とが、彼の地の方言まじりに語られている。気づけばこれもノンフィクションなのであった。
これも素晴らしい一冊。2022年のベスト3に入る。こちらはヤマケイの新書。いずれにしても、こうした自然と動物についての温かい目線を言葉に変えた本を出すことにかけては、山と渓谷社に勝る出版社は無いのではないか。この著者である若林さんは、釣り雑誌の編集者としても活躍されているが、彼の仕事を見る度に希望をもらえる。氏のブログを読むばかりで直接の面識はないが、尊敬する編集者のひとり。いつか直に会ってお話を伺いたい……。埼玉の河川をホームフィールドとしていることにも、勝手に共感がある。この本はとにかく優しい視線で身近な自然の驚きが記されていて、丁寧に作られた本だということが伝わってくる。センス・オブ・ワンダーとは、こういうことだ。このように誠実な本をみんなが作れるのなら、出版の意義はあるし、そして作らねばと思う。
若林さんが手掛けるRIVER WALKという雑誌は、既存の釣り雑誌にない体験を先に語り表現するタイプの雑誌で、これを自転車の分野で出来ないかと僕は常々考えている。
2021年に出た本だけれど、しっかり読んだのは2022年。文章を書くための心構えを説いてくれる本だが、もっとひろく仕事をすること一般についても敷衍できる内容だと思った。持てるものを全て伝えようと著者の意気込みと情熱が伝わってくるような、熱い本だった。しかしこの本はAmazonで買ったら、表紙になんだかわけのわからないシールを貼られていて、跡が残ってしまった。やはり書店で、手にとって、手に馴染んだ本を買うようにしないといけないな、と思ったのだった。