Race Essay: Paris – Roubaix 2015

/

 


春の女神とクラシックの女王はデゲンコルブにキスをする


その不在ゆえに存在が際立つような選手がいる。この北のクラシックにおいて、ファビアン・カンチェラーラの不在は声高に喧伝され続けた。

しかしそれも、ツール・デ・フランドルが始まるまでのこと。アレクサンダー・クリストフが勇猛果敢な追走劇の果てに、オウデナールデで前年パリ〜ルーベ覇者のニキ・テルプストラをスプリントで打ち破ったその瞬間、勝者への賞賛は「今、ここ」にだけ注がれる。ひとたび北のクラシックが熱狂すれば、たらればの入る余地などまったくないかのようだ。

7月末のパリ・シャンゼリゼで黄色いジャージを着た男が、最後のロードレースに北の地獄を選ぶというのは、この20年間考えられもしないことだった。それも結果を残すための走りをするという。これまで様々なヴェロドロームで、様々な栄光を手に入れてきたサー・ブラッドリー・ウィギンズだが、ルーベのヴェロドロームで石塊のトロフィーを掲げることは叶わなかった。だがその高潔さと意志は、永遠に語り継がれることだろう。

イタリアのパリ〜ルーベでいみじくも勝利したズデネク・スティバルにこの日千載一遇のチャンスが巡ってきた。チームメイトのイブ・ランパールトとフレフ・ファンアフェルマートの2人が先頭に飛び出したところで、このチェコ人のシナリオは描かれたかに見えた。シエナでファンアフェルマートのやり方はわかっている。あとは、ランパールトに合流するタイミングを見計らうだけだった。

その刹那に飛び出したジョン・デゲンコルブを追わなかった一瞬の判断が、フィニッシュライン上の一瞬の差、しかし永遠に埋まることのない差につながった。泥の上で数々の栄光を手にしてきたクロスマンは、石の上の栄光にまだ見放されたままだ。

プリマヴェッラとクラシックの女王。美しくも苛烈な女傑のキスを両頬に受けたジョン・デゲンコルブは北のクラシックの王様となる。

その不在ゆえに存在が際立つような選手がいる。パリ〜ルーベが終わった今、それはトム・ボーネンに他ならない。もし彼がいたなら、エティックス・クイックステップの北のクラシックは、表彰台のもうひとつ高いところに立てただろうか。否、ひとたび北のクラシックが熱狂すれば、たらればの入る余地などまったくない。勝者は今、ここにしか存在しない。

Paris Roubaix 2015
 

1 John Degenkolb (Ger) Team Giant – Alpecin 5:49:51
2 Zdenek Stybar (Cze) Etixx – Quick-Step
3 Greg Van Avermaet (Bel) BMC Racing Team
4 Lars Boom (Ned) Astana Pro Team
5 Martin Elmiger (Swi) IAM Cycling
6 Jens Keukeleire (Bel) Orica GreenEdge
7 Yves Lampaert (Bel) Etixx – Quick-Step +7″
8 Luke Rowe (GBr) Team Sky +28″
9 Jens Debusschere (Bel) Lotto Soudal +29″
10 Alexander Kristoff (Nor) Team Katusha +31″

編集者、ライター、サイクルロードレース実況担当(GCN)、レースMC、釣り人、シクロクロッサー。

自転車で行く釣り/Bike to Fishing/海外釣行/バス/渓流/シーバス

Latest from Blog

冬のSLJ@シーランド

トンジギから3日後、なぜかまた和歌山に来ていたのだった。 自転車に乗って。 三重まで入ってSLJ! 2枚目ね↓ この投稿をInstagramで見る シーランド(@sealand_nishiki)がシェアした投稿 財布を紛

できすぎトンジギデビュー メバチ54kg

和歌山での3日間の自転車旅ロケを終えて、早朝4時、御坊で啓兄に拾ってもらう。せっかく関西に来るならと大好きなSLJを予定していたのだが、紀伊半島の西側の風が思わしくなく、串本なら船が出られるとのことで、一路南へ。SLJが

2023年の初釣りはうおつり丸で

この世で一番愛してやまない船はうおつり丸である。新年もとうに2週間が過ぎ去って、ようやく釣り竿を振るときが来た。今回も無理を言って、うおつり丸を出船してもらった。毎度のことながら、@atuyrとツトム船長には感謝しかない

2022年に読んだ本

2022年は春から仕事も住む場所も、環境ががらりと変わったけれど、時間に余裕のある日も増えてきて、森の中のような家で本を読むようになったのは嬉しい変化だった。年末の大掃除にと引っ越して以来手つかずでいた本棚周りも大きく手

うおつり丸 2days

この世で一番愛してやまない船はうおつり丸である。2022年12月第2週目の、出航。 <Day1> いつものうおつり丸メンバー @atuyr @keitsujifishing に加え、現役レーサーの小出樹選手 @koide