前哨戦だなんて言わないで! ツール・ド・スイス(お知らせ含む)

ツール・ド・スイスは格式あるレース

ものの本で、たまにこう書いてあるのを見つける。“ツール・ド・スイスはかつてジロ、ツール、ブエルタに並ぶ4大ツールのひとつだった” いまツール・ド・スイスをグランツールに比較する人はいないだろう。それどころか、「ツールの前哨戦」なんて収まりのよいフレーズがすっかり定着している。

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確かに、7月のツール・ド・フランスを控えて、出場メンバーは豪華だ。「7月の8人」を選ぶために、選手はもちろん監督ら首脳陣にとっても重要なレースとなる。同時期に同規模で開催されるクリテリウム・デュ・ドーフィネでもこのイス取り合戦は行われていて、より一層、ツール前哨戦としての色合いが濃くなる。

このレースがドーフィネ・リベレと呼ばれていた頃は、ツールの前哨戦なんて言われていなかった。ジャック・アンクティルのドーフィネ&パリ〜ボルドーのダブル達成が今も伝説的に語り継がれているように、レースの格が高かった。いずれにせよ、2010年にASOがこのレースを「買って」からは、翌月のツールと同じコースをステージに用いるなど露骨な前哨戦商法をとったものだから、それはなるべくしてツールの前哨戦になっていったのだ。

そこでスイスである。4大ツールであるかはさておき、グランツールを除けば最も長い全9ステージのワールドツアーレース(ツアー・オブ・チンハイレイクなんて通好みのレースは、相変わらず2週間かけてのステージレースだけれどね…)。今年の大会を見るのに役立ちそうな情報を自分のために整理しておきます。

<スイス過去10年の優勝者>

2008 ロマン・クロイツィゲル(リクイガス、現ミチェルトン・スコット)
2009 ファビアン・カンチェラーラ(サクソバンク、引退)
2010 フランク・シュレク(サクソバンク、引退)
2011 リーヴァイ・ライプハイマー(レディオシャック、引退)
2012 ルイ・コスタ(モビスター、現UAEチームエミレーツ)
2013 ルイ・コスタ(モビスター、現UAEチームエミレーツ)
2014 ルイ・コスタ(ランプレ・メリダ、現UAEチームエミレーツ)
2015 サイモン・スピラック(カチューシャ)
2016 ミゲルアンヘル・ロペス(アスタナ) (COL)
2017 サイモン・スピラック(カチューシャ)

過去10年の半分はルイ・コスタとサイモン・スピラックで占められている。このうち、今年(2018)出場予定なのは、ゼッケン1をつけるディフェンディング・チャンピオンのサイモン・スピラック(スロヴェニア、カチューシャ)とツール・ド・スイス最多優勝記録(4勝)がかかるルイ・コスタ(ポルトガル、UAEチームエミレーツ)、10年前の優勝者ロマン・クロイツィゲル(チェコ、ミチェルトン・スコット)の3名。

ちなみに、2017年スピラック、2016年ロペス、2015年スピラック、2014年コスタは続くツール・ド・フランスに出場していない。

さらに、過去優勝者の続くツールの成績を見てみると、2013年のルイ・コスタが総合27位(フルームから54分34秒遅れ)、2012年のルイ・コスタが総合18位(ウィギンズから37分03秒遅れ)、2011年のライプハイマーが総合32位(エヴァンスから1時間3分58秒遅れ)、2010年フランク・シュレクがリタイヤ、2009年カンチェラーラが総合91位(ただしプロローグで優勝、もともと総合狙いの選手でない)、2008年のロマン・クロイツィゲルが総合12位(サストレから12分59秒遅れ)と正直、スイスの優勝がツールでの活躍を約束するものにはなっていない

さらにちなみに、過去優勝者のツールでの最高成績とその年のスイスの成績との関連は次のとおりである。

2008 ロマン・クロイツィゲル……2013年ツール総合5位、スイス総合3位
2009 ファビアン・カンチェラーラ……参考にならないので割愛
2010 フランク・シュレク……2011年ツール総合3位、スイス総合7位
2011 リーヴァイ・ライプハイマー……2007年ツール総合3位(参考記録)、スイス未出場
2012 ルイ・コスタ(モビスター、現UAEチームエミレーツ)……2012年ツール総合18位、スイス優勝
2015 サイモン・スピラック(カチューシャ)……2009年ツール総合109位、スイス未出場
2016 ミゲルアンヘル・ロペス(アスタナ) (COL)……ツール未出場

これでみてみると、ツール・ド・スイスでの好成績と続くツール・ド・フランスでの好成績はあまり関連性がなさそうだ。

では逆に、ツールの総合優勝者とその年のスイスでの成績の連関を見ていく。

2008 カルロス・サストレ……未出場
2009 アルベルト・コンタドール……未出場
2010 アンディ・シュレク……スイス総合14位
2011 カデル・エヴァンス……未出場
2012 ブラッドリー・ウィギンズ……未出場
2013 クリス・フルーム……未出場
2014 ヴィンチェンツォ・ニーバリ……未出場
2015 クリス・フルーム……未出場
2016 クリス・フルーム……未出場
2017 クリス・フルーム……未出場

なんということでしょう、過去10年のツール総合優勝者は、ほとんどスイスを走っていない。のみならず、歴史上スイス&ツールの『ダブルツール』を同年で達成したのは、2001年のランス・アームストロング、1974年のエディ・メルクスの2名のみ(ざっと調べなので間違ってたらすみません)という結果。この両名は十分すぎるほどのレジェンドであり、他の選手に当てはめるのも少し違う気がする。現役選手なら唯一フルームしか比肩できないか……。

ということなので、ツール・ド・スイスに関しては、「ツールの前哨戦」という言い方は適切でないと結論づけたいと思います。

ちなみにドーフィネだと2016、2015、2013年フルーム、2012年ウィギンズ、2003、2002年アームストロング、1995年ミゲル・インドゥライン、1981、1979年ベルナール・イノー、1975年ベルナール・テブネ、1973年ルイス・オカーニャ、1971年エディ・メルクス、1963年ジャック・アンクティル、1955年ルイゾン・ボベと『ダブルツール』の数は膨れ上がる。いずれにしても偉大なチャンピオンの名前しかないが……。

そんなわけで、ツール・ド・スイス、全9ステージのワールドツアーレースとして、楽しんでみましょう。今年は出場メンバーも豪華で、見応えのあるレースになること間違いなし。

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スタートリスト 

<総合成績>

総合成績を競う選手たちは豪華だ。基本的には各チームのゼッケン末尾1のエースを見ればいいが、過去スイス2勝の「1週間スペシャリスト」サイモン・スピラック(カチューシャ・アルペシン)、今年こそはツールを獲りたいタスマニアンデビル リッチー・ポート(BMC)、やはり1週間のレースに強い地元スイスの古豪ミハエル・アルバジーニ(ミチェルトン・スコット)、ティレーノでの落車鎖骨骨折からの復帰となるウィルコ・ケルデルマン(サンウェブ)はツールよりもブエルタにフォーカス。やはり1週間のステージレースに強い印象のあるスイス人マティアス・フランク(AG2R)、昨年のドーフィネ覇者、今年はツールのエースを担うであろうヤコブ・フールサン(アスタナ)、イザギレ兄弟(バーレーンメリダ)は特に昨年山岳で走りが光った兄ヨン、ジロに続いてのGCライダーっぷりを期待したいパトリック・コンラッド(ボーラ・ハンスグロエ)、地味ながらツールのポディウムに近いバウケ・モレマ(トレック・セガフレード)、1週間のレースなら総合も狙えそうなティム・ウェレンス(ロット・ソウダル)、ダブルエース体制を敷くモビスターからキンタナとミケル・ランダの2名、4月のバスク一周で最難関山岳を制したエンリケ・マス(クイックステップ)、昨年のスイスでも山岳での走りが光ったジョー・ドンブロスキー(EFエデュケーションファースト・ドラパック)、昨年総合3位、今年はルタデルソル7位、カタルーニャ8位、ロマンディ6位と1週間のステージレースで好調さを見せるスティーブン・クライスヴァイク(ロット・NLユンボ)、今年はコッピ・エ・バルタリで総合優勝を遂げチームスカイのエースナンバーをつけるディエゴ・ローザ、あるいは「ベルナル世代」の主役の一人パヴェル・シバコフの未来を見据えた走り、プロコンチームながらコンスタントなステージレースの強さを見せるリリアン・カルムジャーヌ(ディレクトエネルジ)らに注目(いやしかし、多い!)。

<その他の注目選手>

スイスのレースということで、地元スイス人選手のモチベーションが高いこの大会。スイス人といえばファビアン・カンチェラーラ、だった時代はもう終わり、若干の地味さはあっても粒ぞろいのスイス人選手と言えば……

ミヒャエル・アルバジーニ(ミチェルトン・スコット)、とにかく強いスイス人。ステージレースの区間狙いのスペシャリストというか、地足的なところの強さは目を見張るものがある。今年はツール・デ・フィヨルドで区間1勝して総合優勝。

シルヴァン・ディリエ(AG2R)は今年のパリ〜ルーベ2位で一躍スイスのスターに。スイスチャンピオンの誇りを見せた27歳は、直前のGPカントン・ダルヴィ(スイス)でも注目の的。9位とワンデイで走れる足を見せている。

シュテファン・キュング(BMC)はディリエとともに若きスイスの有力頭。BMCのチームTT要員として定着した感のあるスペシャリストは、TTスイスチャンピオンとして母国最大のレースに臨む。第1ステージのTTTで先頭でゴールしてリーダージャージを獲得するあたり、スター性も十分。

マティアス・フランクも強いスイス人の好例。昨年は総合7位でベストスイス人ライダー賞を受賞。ベテランの味わい深いグレゴリー・ラストは一昔前のスイスチャンピオンジャージのイメージが強い(2004年、2006年)。

<第3ステージプレビュー>

全9ステージで行われるツール・ド・スイスのうち、注目度の低い部類に入る第3ステージについて(理由あって)詳しく見ていく。

オーバーシュタンムハイム〜ガンジンゲン間の182.8kmで争われる第3ステージは、スタートのオーバーシュタンムハイム、ゴール地点のガンジンゲンでそれぞれ周回コースが設定されるユニークなレイアウト。獲得標高は1986m。ツール・ド・スイスの全体的な傾向である周回コースはここにもみられる。

フィニッシュ地点を含むガンジンゲンの周回コースは2.5周し、ハヘンフィルスト(1.8km、平均7.8%、標高530m)バレールスタイグ(2km、平均7%、標高550m)の2つの3級山岳が設定される。

ゴールまでには、
117.5km/残り65.3km ハヘンフィルスト(1.8km、平均7.8%)
-フィニッシュライン残り2周(ガンジンゲン)
126.3km/残り56.5km バレールスタイグ(2km、平均7%)
132.2km/残り50.6km モンタレルシュトラッセ(スプリントポイント)
147.4km/残り35.4km ハヘンフィルスト(1.8km、平均7.8%)
-フィニッシュライン残り1周(ガンジンゲン)
156.2km/残り26.6km バレールスタイグ(2km、平均7%)
162.1km/残り20.7km モンタレルシュトラッセ(スプリントポイント)
177.3km/残り5.5km ハヘンフィルスト(1.8km、平均7.8%)
 -フィニッシュ(ガンジンゲン)
とのべ5つの3級山岳が設定されているが、やはり最後のハヘンフィルストがゴールあで残り5.5km地点ということもあり、ここでスプリンターをふるい落としにかかる動きが生まれそう。

というよりも、第2ステージの激しさを考えると、総合優勝争いの面々がここで飛び出すことも十分に考えられる。本格山岳の前の、総合勢の顔見せの打ち合いに注目。

<放映はDAZNで>

そして縁あって、6月11日(月)に開催されるツール・ド・スイス第3ステージ、DAZNでのライブ放映の実況を務めさせていただくことになりました。解説は別府始さん。僕が10代の頃にヨーロッパのロードレースの世界を見せてくれた兄のような方と、こうしてまた一緒に仕事できるのが嬉しいです。足を引っ張らないようにしないと……。ということで、ぜひツール・ド・スイス、夜遅いですが視聴のほどよろしくお願いします。

ロードレースまとめ(ツール・ド・スイス第3ステージ)