DAZNでのロードレース実況を振り返る

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DAZNにて2020年のロードレース放映がなされない旨、正式に発表がされました。これに関して、個人的にものすごく残念ではありますが、何より現場の制作陣の沈痛な落胆も見知っているだけに、その気持ちはより大きなものになります。作り手はみな、自転車競技が好きで少しでも良いものを届けたい、という一心で邁進してきました。放映が終わったあとも、その日活躍した選手について讃えたり、展開を振り返って盛り上がったりと、「自転車好きの輪にいる」喜びはむしろ放映後に味わうことが多かったです。

ビジネス上の判断ですので、数字が判断基準になるのは仕方ないと思います。数字に貢献できなかった己の未熟ぶりも受け止めています。個人的には、ロードレース視聴者の方の熱量は他スポーツと比べても高く、観戦に対する情熱をTwitterのハッシュタグを通じてライブ中にも、放映後にもいつも感じていました。スタジアムスポーツでは、ある特定のチームや選手を応援することが、観戦の基本にあると思いますが、ロードレースに関しては、それぞれに好きな選手やチームがありつつも、それを含めた「ロードレース全体」が好き、というみなさんの雰囲気を感じ、そしてそれこそ僕がこのスポーツを好きだという理由なのかもしれないと思いました。誰も貶めず、勇敢な走りと勝者を常に讃える、ロードレース観戦に漂うそんな気品のようなものが。わかりやすい“主役vsヒール”という二元論で括れない、200人の選手、それを取り巻くチーム関係者、沿道の観客、プレス関係者、あるいは画面で同じレースを見る何千何万という視聴者全体を含めた「大きな物語」がいつだって好きなのです。(二元論的なスポーツの陶酔的な魅力も、もちろん好きですが)

2018年にDAZNにてロードレースの実況を担当させていただき、喋りはズブの素人ながらも寛大に再度の実況機会を与えていただきました。担当したレースはすべて忘れ難いものですが、ひとつ残念なのは日本人選手の活躍をなかなかお伝えできなかったことです。ワールドツアー外のレースも放映したDAZNでは、日本人選手が出場するレースもありましたが、もっともっと日本人選手にフォーカスした実況ができればよかったと思います。この点は、昨年よりも多くの選手がヨーロッパチームで走る2020シーズンに、放映がなくなったことを本当に残念に思います。

2020年は東京での五輪もあり、日本のロードレースにとってひとつの節目となるのはもうファンはみんな薄々感づいているのではないでしょうか。日本が誇る新城・別府という二枚看板がツールを揃って走ってからもう10年が経ち、また女子レースを牽引し続ける與那嶺選手も数年来のステップアップをこの五輪に合わせてきているように見えます。実況する機会は決して多くなかったですが、こうした選手たちがプロトンの前でレースしているのをみるにつけ、大いに勇気付けられるのでした。

今後公共の電波で実況をさせてもらう機会はおそらくないと思いますので、ひとつの記録としてこれまで担当したレースを振り返っておきたいと思います。

ツール・ド・スイス 2018 第2ステージ フロイエンフェルト
初めての実況でした。別府始さんにサポートをいただきながら、つっかえつっかえ進行。レースの「全体」を見る難しさを痛感しました。スターターはヨランダ・ネフで、おっ!と思ったのだけど、当時まだ自信がなくて言えなかった…いきなり誤情報を流したらどうしようかと…。しかし冷静になってみれば、スイスのレースでこのブロンドカーリーヘア、ネフしかいませんね(↓ハイライト動画にも写っています)。レースはサガンのスプリント勝利でした。

ツール・ド・スイス 2018 第8ステージ ベッリンツォーナ周回
レースはグルパマ・FDJが完璧なトレインを形成して、アルノー・デマールが勝利。いまこうして冷静に見ればなんてことないのだけど、オランダチャンピオンのシンケルダムとフランスチャンピオンのデマールのジャージが配色が似通っていて、レース中はしばしば取り違えた。こういう瞬間的な判断も、実況には問われるのだと実感した次第。

フランス選手権2018 マント・ラ・ジョリー
この仕事は嬉しかった。なんといっても、フランスの国内選手権を日本にお届けできるということで。同時にプレッシャーもありましたが、ナショナル選手権らしいFDJの15人集団牽引(!)とか、ユニークなレースをお楽しみいただけたのではないでしょうか。展開も絶対的優勝候補のアラフィリップが終盤に見せ場を作りながらも、冷静にコマを進めたアントニー・ルーが見事フランスチャンピオンに輝きました。

ツール・ド・ポローニュ 2018 第4ステージ
登りフィニッシュの第4ステージは、前年優勝のディラン・トゥーンスをポーランドチャンピオンのクフィアトコウスキーが制して勝利。ナショナルヒーローとしての各を見せつけるレースに。集団で突入する登りフィニッシュは走っている時間も長く選手も入り乱れるので、平坦の集団スプリントよりも選手判別のスキルが問われると痛感した次第…。

グランプリ・シクリスト・ド・モンレアル 2018
カナダ・ケベック州はモントリオールで行われるワンデイレース。モン・ロヤイワル周辺を走るコースということで、かつて訪れたモントリオールを思い出しつつの実況。北米時間でスタジオ入りの時間が大変に遅かった思い出。緩斜面の上り集団スプリント。コルブレッリとマシューズの息も詰まるスプリントバトルでマシューズに軍配。

ツアー・オブ・ブリテン 2018 第5ステージ TTT
初のチームTT実況。独特のリズムに慣れようと務める。ロット・ユンボが勝利。

ミラノ〜トリノ 2018
シーズンフィナーレを飾るイタリア・トリロジーの初戦。スペルガの登り決戦、ゴデュの落車がありつつもピノがアタックを決め勝利。3位にはアルカンシェルを獲得したばかりのバルベルデ。さすがの強さ。ピノはこの勝利を弾みに、イル・ロンバルディアを制することになる。

ツアー・オブ・タイフーレイク 2018 第4ステージ ジャンイエン
初の一人実況、アジアのレースということで選手も普段とは違う顔ぶれ。勉強になりました……セント・ジョージのディラン・ケネットがスプリント勝利。彼は2019年のタイフーレイクで総合優勝を遂げている。

ブエルタ・ア・サン・フアン 2019 第6ステージ&第7ステージ
2019年は南米アルゼンチンのレースからスタート。平日深夜と早朝の合間のライブ放映でしたので、一人でも視聴してくださっていたらよいのですが…。レース自体は、アラフィリップのステージ2連勝やレムコ・エヴェネプールのプロ初戦でいきなりTT3位など、見所たくさん。第6ステージは3名の逃げからニコラス・ティバニが優勝。彼は今後要注目の選手としてチェックしています。続く第7ステージは、サム・ベネットが得意の急加速でスプリント勝利。

ボルタ・ア・ラ・コムニタ・バレンシアナ 2019 第2ステージ アリカンテ〜アリカンテ
バレンシアナ第2ステージは、トレンティンが技ありのスプリント勝利。ヨーロピアンチャンプ、好調。

UAEツアー 2019 第4ステージ パーム・ジュメイラ〜ハッタダム
サイクリングのグローバル化を感じずにはいられないUAEツアー。名所ハッタダムへの上り決戦は、登れるスプリンター、カレブ・ユアンがトレックのモスケッティを振り切り見事な勝利。こんな急勾配までこなしてしまうとは……。

ノケレ・クールス 2019
北のクラシック初実況。温暖な地域のレース実況から入ったからか、はてはクラシックの格がそうさせるのか、しゃんと身の引き締まる思いで臨みました。なんといってもマチュー・ファンデルポールの初戦ということでしたが、なんとゴール前の石畳で激しく落車。レースはセース・ボルがアッカーマンを登り石畳スプリントで制して勝利。MVDPのロードシーズンは、不運の始まりか……と思われたのでしたが。

グランプリ・ド・ドゥナン 2019
プチ・パリ〜ルーベとも呼ばれる北フランスの石畳クラシック。4日前に激しく落車したMVDPが、なんとも積極果敢なレース運びで完全に掌握。そう、この男には常識が通用しないという、今後シーズンを通じて何度も思い知らされる事実を初めてここで知るのでした。(↓の動画はフランスのニュース局のハイライト。自転車メディアと違ってルポ風のまとめかたも面白いですね)

ヘント・ウェベルヘム 2019
この北のクラシックを担当させてもらえることに、まずは打ち震えました。伝統のGW。クラシックらしい出入りの激しい展開、そして最後はクリストフの目の覚めるようなロングスプリント。これぞ北のクラシック。

ドワルス・ドール・フラーンデレン 2019
NO WORDS, it’s MVDP who won!!!

ジロ・ディ・シチリア 2019 第3ステージ
ひさびさにレースシーンへ戻ってきたシチリア島の伝統のレース。日本からは初山、中根、小林が出場。エトナ山に登るクイーンステージ前日の第3ステージは、雨のサーキットでブランドン・マクナルティ独走勝利。アメリカ期待の新星は、そのまま総合優勝も獲得。2020シーズンからはUAEチームエミレーツに移籍。TTを走れるグランツールレーサーへの成長が期待されます。

トロ・ブロ・レオン 2019
これもまた、日本にお届けできて光栄だったフランスのもうひとつのクラシックレース。石畳というよりは、ダートをガンガン走るロードレースの往時を忍ばせるレース。しかし今や、このスタイルが再び時代に追いついてきましたね……。現地でぜひ見てみたいレースのひとつ。ダートもいいけれど、それ以上にこのブルターニュという地方や文化も放送でお伝えしたかったですが、勉強と実力不足でした。またやりたい。。

ジロ・デ・イタリア 2019 第3&第7&第14&第16ステージ
ジロに実況で携われたことは大きな喜びでした。もう現地で見たのは10年以上も前でしたが、変わらずイタリアの、ジロらしさとしか形容できない熱気がありました。

第3ステージは何と言っても、初山翔の大逃げ! グランツールの先頭を日本人が走ったのです。決着はジロらしい主役級スプリンターの競演に。イタリアチャンピオンヴィヴィアーニが制す! …という展開が、斜行による降格という波乱の幕開け。ガヴィリアが勝利。ヴィヴィアーニはよくも悪くも、ドラマのある選手です。

ラクイラにゴールする第7ステージは、少数精鋭グループからペリョ・ビルバオが勝利。こういうガッツポーズは、胸がすく思いがします。そしてモビスターのジロがここに始まっていたのです。

クールマイユールにゴールする今大会の最難関ステージのひとつ第14ステージ。リチャル・カラパスがステージ優勝とマリアローザ獲得。このステージが、今年のジロを決定づけるものとなりました。

第16ステージはモルティローロを含む山岳ステージ。悪天候によるコース短縮はあったものの、チッコーネとヒルトのマッチレースに。終始引っ張ったチッコーネがビッグウインを手にしました。

ツアー・オブ・ベルギー 2019 第1ステージ
シクロクロススターがぞろっと勢揃いのベルギー。個人的には実況していてとても楽しかったです。逃げグループから独特の幅狭ハンドル&ブラケットポジションのウィレム・ファンスヒップが見事なタイミングで逃げきり勝利。改めて今見るとやはりトラック選手らしいフォームですね。そして追いつかなかったメイン集団のスプリントではティム・メルリールが頭を取っていて、その後のベルギー選手権につながる強さも見せていました。コレンドン・サーカス新加入選手でしたが、MVDPだけじゃない選手層の厚さも感じさせました。

ツアー・オブ・スロベニア 2019 第2ステージ マリボル〜ツェリェ
なかなかレース映像としては馴染みのない東欧スロベニアをめぐるステージレース。独特の様式をもつ建築と、空撮に映える緑の鮮やかさ。スロベニアは行きたい国リストに入りました。こうして、行ったことのない国を知ることができるのも、よく言われることですがロードレースの魅力だと感じます。レースはアッカーマンが圧倒的なスプリント力で勝利。

ツール・ド・スイス 2019 第9ステージ ウルリヘン
最終第9ステージは難関山岳。大人数の逃げグループから、ヒュー・カーシーが見事としかいう他ないソロでの大逃げを決めました。積極果敢な走りが身上のヒュー、挑んで力尽きる印象が強かったですが、ここでとうとう大きな勝利を収めることに。2014年のTOJでは一緒にレースを巡ったこともあり、そしてその時の鮮烈な走りが忘れられず、あまり選手に肩入れはしないのですが個人的にものすごく嬉しいステージでした。総合はベルナルが安定した走りで優勝。しかし、ツールまで勝つことになるとは……。

グランピエモンテ 2019
2019年はミラノ〜トリノに変わり、イタリア秋のクラシック3連戦のグランピエモンテを担当。そして登り基調となったこのレース、ツール・ド・フランス勝者のその実力。ベルナルの見事な勝利、そして2位のソーサとイネオスワンツー・ソーサもまたこれから先、大きく化けそうな、底が見えない選手として注目したいと思います。

終わりに

改めて振り返ると、本当にいろんな国、いろんなレースを担当させていただきました。至らぬ点は多かったですが、かねてからの問題意識であるロードレースとヨーロッパ文化という観点が、この旅を通じてよりグローバルな視点へと変わりつつあるのを個人的に感じる1年半でした。馴染みのない国の地名をどう読むのか、という下調べが実は結構好きな作業でした。

報道の末席で、鳥のさえずりよりもささやかな試みではありましたが、形や方法を変えても、引き続き自転車というこのスポーツの魅力を伝えていきたいと思います。声の方では、2/11(祝)に稲城クロスにて会場MCを担当しますので、ぜひお近くの方はシクロクロスとはどんなもんや、とサイクリングついでにでもお立ち寄りください。

2020シーズンも、ツアー・ダウンアンダーがすでに開幕、そしてニッポ・デルコ・ワンプロヴァンスが出場するアミッサ・ボンゴなど、1月から注目レースが目白押しです(あとシクロクロス世界選手権も)。またどこかのレースで、お会いできれば光栄です。

編集者、ライター、サイクルロードレース実況担当(GCN)、レースMC、釣り人、シクロクロッサー。

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