トロ・ブロ・レオン Tro Bro Leon -DAZN実況

“西の地獄” あるいは “プチ・パリ〜ルーベ”へようこそ

このレース最大の特徴は、なんといっても20を越えるダート・グラベルのセクターが現れる未舗装路のワンデイであること。フランス北部というロケーション、連続するセクターに落車とパンクが頻発するコース、そして北の地獄に辛酸を舐めさせられたフランス人選手の復仇と、多くの類似点をもって、“西の地獄” あるいは“プチ・パリ〜ルーベ” と呼ばれる。

アムステルゴールドレースの翌日、ブランス北西部ブルターニュ地方を舞台とするワンデイレース「トロ・ブロ・レオン」が開催される。すでにサンレモからやってきた春は、北の地獄を経て、カウベルクの激坂に至るころには初夏の趣さえある。しかし、ヨーロッパの辺境にして自転車の大地ブルターニュに本当の春を告げてくれるのは、この「トロ・ブロ・レオン」である。

しかしパリ〜ルーベとは似て非なる

未舗装路の「セクター」が連続するという点で、あるいはレースの映像を一目見れば、パリ〜ルーベとの類推は必然的ですらある。それに、後に触れるこのレースの発端は、パリ〜ルーベにある。しかしこのブルターニュのレースを、パリ〜ルーベの簡易版として捉えるのは間違いだ。共通点に見える未舗装路の質に、最大の違いがある。

すでにご覧いただいたパリ〜ルーベは何と言ってもパヴェ、石畳のレースだった。何時でもタイヤを飲み込まんとする隙間が口を開く硬質な石畳と違い、トロ・ブロ・レオンのセクターは、ダート、現代風にいえばまさしくグラベルである。ブレイス語で、『リビヌ(ribinou)』と呼ばれるこれらの未舗装路こそが、トロ・ブロ・レオンの代名詞だ。

田舎の農道、という表現がぴったりくるリビヌのセクター。4輪車の轍を避けた道路の中央には緑がこんもりと盛り上がる。ロードバイク、あるいはシクロクロスで田舎道を走る者なら、誰でもが出くわすような典型的な未舗装路。その意味で、石畳の少ない日本のサイクリストにとっても、よりイメージしやすい路面でもある。

いま、アメリカ発祥のグラベルロードあるいはオールロードというカテゴリーがブームだ。新しい自転車の楽しみ方に見えるが、なんのことはない、ヨーロッパでは特に新しいことでもない。歴史的には、こうした道も「ロードレース」では当然のように使ってきたし、その意味で昨年のパリ〜ツールに未舗装路区間が取り入れられた時も、石畳で意匠を凝らすのではなくこうしたグラベルの道が選ばれたのだった。

ただ、パリ〜ツールのようなヨーロッパのレースが意図的にグラベル区間を取り入れ戻したということについては、やはりアメリカらしい「既存のものをリ・パッケージングして新しい価値を生み出す」影響があったことは疑いえない。歴史に光を当て、目を開かせる彼らのアティチュードには感服しきり。

ロードレース = 舗装路のレース?

少し脱線するが、ロードバイクで未舗装路に入るのを頑なに嫌がるライダーは結構多い。バイクは汚れるし、サドルは跳ねるし、パンクはするし、確かに快適なものではない。けれど、300mの未舗装路を走ればもっといい道に出れるのであれば、トライしてもいい。「ロードバイク」の可能性を自ずから狭めなくてもいいと思うのだ。案外、走れてしまう。

さらに脱線するけれども、これは「ロードレース」っていう言葉がもつイメージの強さも影響しているのではないか。モーターバイクのロードレースというとサーキットでのオンロードレースが想起される。それに大半の人が自転車ロードレース、として初めて目にするのはおそらくツール・ド・フランスであるだろうし、ロードレース=舗装路のレースとなるのは自然なことだ。でも例えば、フランス語だとワンデイレースはCourse en ligne =ラインレースという意味で、一本線ヨーイドン!のレースということしか意味しない。

トロ・ブロ・レオンというレースについて

ブルターニュ語で、ツール・デュ・ペイ・レオン、レオン地域一周レースの意。1984年に創設され、今年で36回目を数える比較的歴史の浅いレース。フランスカップの1戦でもある。今年は第8戦/15戦。勝者に与えられるのは、西の地獄を生きぬいた強者の称号と……ブタ! 

2019.04.23追記)放送中に指摘いただいたのですが、「ブルトン人の」最高順位の選手に与えられるのが、ブタ!のトロフィーでした。2019年はアルケア・サムシックのロマン・アルディが獲得。

レースは、ジャン・ポール・メリエ氏が、1983年のパリ〜ルーベをTVで観たことにはじまる。そこでは、オランダ人ヘニー・クイペルが後続に1分以上の大差をつけて独創勝利を遂げていた。同い年だったアマチュアライダーのメリエ氏は、大いに刺激され、生まれ育ったブルターニュの地域で、こんなレースができないかと思い至る。

時期を同じくして、ブルターニュではブルターニュ語による教育の機運が高まっていた。ケルト文化に端を発するブルターニュは、フランスの北西の果てという立地もあり、言語を含む独特な文化が保持されていた地域だったが、近代化もとい現代化の流れの中で文化保全が叫ばれていた。「エコール・ディワン」と呼ばれるブルターニュの教育機関運営資金をサポートするという意味も込めて、トロ・ブロ・レオンは創設された。

未舗装路リビヌを取り入れたロードレース、という概念は1984年当時にも斬新だった。というよりも斬新すぎたようでジャーナリストの反応もまちまちだったという。リビヌの数も距離は現在よりもずっと少なかったが、選手が道を間違えることもしばしばあった。ずっとアマチュアのレースとして開催されたが、1999年からはプロレースになった。以降は、パルマレス(優勝リスト)にはおなじみの名前も散見される。

2019年大会

2018年とは逆の時計回りにルートがとられる2019年大会。ブルターニュ地方ラニリスの街を周回してゴールするのは変わらない。途中、のべ27箇所のリビヌが配置され、総走行距離205kmに対し、リビヌの総距離は30kmオーバー。それぞれのリビヌはパリ〜ルーベのセクターよろしく名前がついているのだけど、ほとんどがブレイス語なので正しい発音がわからない……。An Ty Pri(リビヌ8)とか、Keradraon(リビヌ18)とかは典型的なブレイス語のようにみえる。

今もレースのオーガナイズを手がけるジャン・ポール・メリエ氏が嘆くように、フランス国外のプロチームの招聘や、フランス人のビッグネームが参加しないことは大会として悩みのタネだという。昨年大会ではクリストフ・ラポルト(コフィディス)が最終局面で単独抜け出しに成功、それを前年覇者のダミアン・ゴダン(トタル・ディレクトエネルジ)が追うというフレンチ・クラシックレーサーの勝負になったことに主催者も安堵したようだ。

2007年大会ではDAZNの解説でもおなじみの宮澤崇史さんが6位(!)に入っている。GPドゥナンでも2013年に5位と、フランスカップのレースの前線を知るほとんど唯一の日本人選手だ。自身が解説に出演しなくてもレース放映中に独自の視点からのツイートをされているので、フォローを。

注目の選手

なによりもまず、伏兵的ではあるけれど、デルコ・マルセイユプロヴァンスのエヴァルダス・シスケヴィシウス(リトアニア)を挙げたい。2018年のパリ〜ルーベでタイムアウトになりながらも、ゴールまで走りたいとルーベ・ヴェロドロームの開門を懇願した選手。

こんな映像があった。サガンが優勝したことを告げられても、一人で走り続けるシスケヴィシウス。まだゴールまでは30kmある。映像はおそらくボワチュール・バレ(レース最後尾を走る回収車)からのもので、ドライバーも「彼はいかれてる」と少々呆れ顔。

もうレースはほとんど終わっているけれど、パヴェでパンクをしたら自分で替えのホイールを取りに行き、自分でスルーアクスルのアーレンキーを締める。そしてすでに勝者の決まったルーベへとまた走り出す。

いよいよ時間も遅くなり、交通規制のタイムリミットも近い。ドライバーがレースディレクターと電話をして、もうこれ以上は付き添えないとシスケヴィシウスに告げる。「まだ走るんなら、交通ルールを遵守して走ってくれよ」「はい、大丈夫です」

順位はつかなかったが、ひとりでルーベのヴェロドロームまで走り切った2018年。そして、今年のパリ〜ルーベでは、精鋭揃いの6位争い集団でスプリントに加わり、9位。トップ10に食い込んだ。

順当な予想をするなら昨年優勝のクリストフ・ラポルト(コフィディス)、このレースと相性のいいダミアン・ゴダン(トタルディレクトエネルジ)が筆頭。コフィディスはいつでも強いユゴ・オフステテ、AG2Rは戦力十分、昨年も活躍したヴァンデンベルフを筆頭に、ジョレギ、03&04年覇者(!)デュムランをライナップ。グルパマは目下のところフランスランキングトップのサローがいる。イスラエルサイクリングアカデミーはデンプスター、ライム。ワロニー・ブリュッセルはリピンズ、ハース。ワンティはバッカールト、デュポン、ヴァレと厚めの布陣。バッカールトは17年に2位で、自宅の牧場に放つのに本気でブタのトロフィーを欲しがっていた。マディソンジェネシスはマイク・カミング、コナー・スイフト。インタープロからは唯一の日本人選手として石原 悠希の名前がリストに入っている。

DAZNにて放送は4月22日 22:30から

です。見逃し配信もあるので、ぜひレース、お好きなタイミングでご覧ください。DAZN (それにしても、アムステルゴールドレースのマチューはすごかった……)