『自転車で釣る』プロジェクト プロローグ

これまで何度も、海外に行く折には釣竿を持って行っていた。学生時代の留学も、社会人になってからの出張も、恋人との海外旅行でも。時間的・場所的制約をうまくやりくりして、異国の水辺にルアーを放り込む最初の瞬間がたまらなく好きなのだ。

photo: Nobuhiko Tanabe
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A final memory in London, Europeen perch, 40cm. Enough to end up this great trip. ロンドン最後の夕方。ふと入った小運河が金脈だった。水面が爆発する1時間。自身の少ないヨーロッパ釣り歴ではこれまでお目にかかったことのないサイズのパーチが入れ食いに。アグレッシブなチェイスの連発に痺れる街中のミノーゲーム。異国の地で魚を釣るのは、異国の地の見知らぬ道を走るのと等しく興奮とめどない。 @km.h.tffrtc さんに借りた怪物パイク用のタックルでなければ、このサイズを高台からぶっこぬくことはできなかった。装備にも助けられた、至福の異国。また訪れたいので、パイクは釣らないでおこう。 #talentforfishingratherthancycling #talentforfishingandcyling

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とはいえ、毎週釣りに行くようなシリアスなアングラーでもない僕は、生来の貧乏根性もあって、釣れる時に釣れる魚はなるべく釣りたいタチ。海外ではよく、数km先にある川が、その数kmゆえに断念するということがある。それが悔しい。少しでも魚との出会いのチャンスを、外国にいても増やせないものか。

時を同じくして、釣りほどではないものの外国ではよく自転車に乗るようにしている。日本でカラダに染み付いた自転車の速度で、外国の街の中、あるいは郊外や山岳地帯を走ると自分なりの感覚でその土地が見えてくる。道の伸び方、曲がり方、家の建ち方、宗教施設、路面の荒れ具合、追い抜いて行くクルマ、etc… ガイドブックには決して載らない、けれど生活に密着したリアルを感じることができる。

ある時、だったら自転車でその土地を巡りつつ、良さそうなポイントで釣りをしたらいいのではないか、と思ったのだった。当たり前の帰結のようだけど、自転車に乗る時は自転車に乗ることに集中したいし、釣りの時は釣りに集中したい。なにより、ロードバイクの魅力はその軽やかさにあるのだから、重い荷物をもってのライドにあまり食指が動かないのもあった。

ただ、自転車界のトレンドがいい流れ方をしてくれた。ロードバイクにちょっとしたオフロードバイクのエッセンスを加えた「グラベルロード」バイクのブームにより、ロードの軽快さを持ちつつも、多少の悪路なら走れるバイクが登場してきた。それに、ドロップハンドル好きな僕にはロードらしさを残したモデルが多いことも後押しをしてくれた。

そもそもは、グラベルロード+釣りの可能性を、国内の渓流釣りに見出していた。渓流へのアプローチで、林道の奥の奥まで入っていける機動性が役立つのではないか、と思ったのだ。それに、渓流脇の民家横に無造作に駐車されるクルマを見るのがあんまり好きではない。なんとなく、自然と相対する釣りという遊びに、自分の身で臨みたい、という気持ちがある。このあたりはサイクルスポーツ誌2018年6月号の特集ページに寄稿した。(釣れなかったけど)いい1日になったのだった。

そんなわけで、昨年、グラベルロードを一台組み、釣りとライドを同時に楽しむ準備は整った。バイクはRodeo Adventure LabsのFlaanimal 4.1。若干重さはあるものの、フォークにボトルマウント、フラットマウントディスクブレーキ、ベルトドライブ&シングルスピード対応と全部乗せの拡張性の高さが魅力の一台。前後42Cのブロックタイヤでも、Attack!299を走り切れたので、基本性能は問題ない(辛かったけど……)。

釣り道具に関しては、昨今のパックロッドブームの恩恵を存分に受ける。もともと、パームスのクワトロ QGS-601という名竿があり(いまでも使ってるけど)、これに関しては数々の魚を釣ってきたこともあり、パックロッドはむしろ好きなくらいだったが、ここにきて各メーカーのパックロッドのライナップの充実ぶりったらすごい。同じくパームスのショアガン SFGS-76M、TENRYUのRayz Integral 50UL-4、HuercoのXT511-5S、TailwalkのOUTBACK NS886L、と手持ちの釣竿はパックロッドだらけになってしまった。しかしどれもいい竿なんだこれが……。

そんな時代の恩恵にあやかって、いよいよ海外でバイク&フィッシュできる装備も整った。初めての旅先は、韓国。ずうっと釣りたい魚が、この国にいるのだ。

(つづく)