自転車で釣る韓国【ep1】 バス、カワムツ、オイカワを釣る90km

自転車で釣る韓国 ep0.5 からの続き

今日は内陸部の町コチャンまでおよそ90kmのライドとなる。事前にコースプロフィールもチェックしていないので、出たところ勝負である。地図で見る限り、結構標高の高い山あいの町のようなので、ある程度の登りは覚悟しておいた。

韓国は外国企業に自国の情報を提供できないとかで、google mapの使用感がすこぶる悪い。最近では日本でもゼンリンが外れたことで、yahoo mapやそもそもiOSに標準のmapアプリが機能も向上しているとかで、選択肢は増えているという。地図アプリは圧倒的にgoogle map、という考え方はどうやらもう古いようだ。各社の進歩は日進月歩なり。

そんなわけで、韓国のルートのナビゲーションはNaver mapにお願いしたのだが、これがまた大変に調子がよい。特筆すべきは、「自転車用」のルートナビ機能があることで、この点日本仕様のgoogle mapよりも断然進んでいる。川沿いのサイクリングロードをメインにルートを引いてくれたので、釣り人としても好都合。おまけに日本語対応までしており、言うことなし。

テグの街中、歩道脇には、フリー空気入れがあり、ちゃんと米式と仏式の両方のバルブに対応している。日本ではあまり見たことないが、先のNaver mapといいサイクリストフレンドリーさが目立つ。飛行機輪行のためちょっと抜いた空気は、宿でハンドポンプでリカバリしたつもりだったがやはり少し甘かったので、ここはありがたく利用させてもらう。ボタンをひと押しするだけで、一気に高圧になった。いい。

今日はほぼ移動日と割り切っているが、途中でいいポイントがあったら釣竿を出す所存。とはいえ、あんまり最初から釣りに熱中して到着が夜になるのも避けたいので、最初の50kmほどはなるべくとまらずに走る。途中良さげなポイントは、Naver mapのお気に入り機能に登録しておく。4日後には逆走するので、その時に釣りをしようという魂胆である。

交通量の多いテグの町も、スタート地点の宿を郊外にしていたためすぐに川沿いのサイクリングロードへ。この日は平日ということもあり、1組だけしかサイクリストを見かけなかった。MTBに乗っていた。荷物を搭載し重量級になったバイクの走り心地はというと、確かに重いが思ったよりは軽快。「ライドそのもの」に集中できる範囲内で、海外バイクライドに少しづつハイになっていく。これはビンディングシューズ&ビブショーツといったウェアリングに加え、パニアバッグにしたことでバックパックを背負わないことに大きく依ると感じた。体が軽ければ、自転車がちょっとくらい重くてもなんてことはないのだ。

韓国の田舎には日本のようにコンビニはない。そして20kmほどして気づいたのだが、なんとボトルを日本に忘れて来た……幸いにも気温は13度ほどで暑くはないが、やはり乗っていると水が飲みたくなる。台湾にはコンビニにボトルケージに差さるカタチのペットボトル飲料が売っていたが(さすが自転車大国!)、そんなものは韓国にはないし、日本でだって見たことがない。しかし自転車用のボトルというのは完全に専用品ですな……ほかで代用しようがない。自転車ショップにいかないと手に入らないというのは、海外旅では場合によっては結構難易度が上がる。あんまり格好良くないけれど、通常のペットボトルが使えるボトルケージなどもあるとよいのかもしれない。サイクリストとしては、フツーのペットボトルをフレームの前三角に収めたくない、という奇妙な美意識もありはすれど。

しかし右車線を走るのは海外に来たという感じで否応なくアガる。左の肩越しに後ろを見るこの感覚……左利きの僕にとっては、こっちのほうが首が回るのだ。ただ、韓国のドライバーは平均速度こそ高めだが、自転車に対しては十分な距離を空けてくれる。対向車が確実に来てないことがわかる見通しのよい道路で頑なに車線をまたがず自転車を抜いていこうとするクルマが多い日本と比べて、この点は自転車で走りやすい。

一方で、路肩の荒れ方は平均して結構なもので、こうした海外ライド、それもパニアバッグを伴うようなライドの時には、太めのタイヤが安心と感じた。今回の32Cも、荷物を積んでだと少し心許なく感じる場面もあった。軽快さとのトレードオフになるため難しいところだが、36Cくらいのスリックタイヤが個人的には良いかと思う。グラベルロードほどオフロードを重視せず、あくまでオンロードをメインに据えながら、ツーリングバイクよりも軽快なファスト・ツアラー的なバイクが自分には合っていそうだ。市場にはあんまりないけれど。。ってちょっと調べたら32CまでだがめっちゃFairlightのStrael欲しくなってきた……。

街道沿いの、最近オープンしたらしき食堂でこの旅初めての食事。なんという料理かわからないけど、骨つき肉の入った鍋で、とにかく美味しかった。7000ウォン。キムチのオプションが韓国に来たことを実感させる。嬉しい。隣のコンビニで飲料などを求めて再びサドルの上に。

(シクロクロスレースが終わってから全く自転車に乗っていなかった割には)思ったよりも快調で、時間も余裕ができてきたので、目についた川におもむろに入ってみる。これこれ、この気軽さ、釣り場へのアプローチの簡単さこそが自転車釣行のいいところ。入ったのは堰になっているポイントで、ソガリを求めてまずはミノーで探る。

と、いきなりきた! アタマの中では(『自転車で釣る韓国』、はやくも完結!)と思いながらも水中で翻った魚体のこの光方、見覚えがあるぞ。果たして2014年夏以来の韓国ブラックバスとの再会であった。ソガリではなかったことのがっかり感よりも、久々にバスが釣れた嬉しさの方が大きかった。ヒットルアーは父お手製のミノー。これがなんだかんだよく釣れるんだ。

とりあえず、サカナの顔を見ることができて一安心(企画倒れにはならなかったぞ)し、再びペダルを漕ぐ。なんというか、釣り人なら誰しもが味わう魚を手にしてからの充足感ったらない。にまにまとしながら右車線を走る。幹線道路への入り方をミスり遠回りを余儀なくされるマイナーアクシデントはあったものの、気力・体力ともに充実しているので気にならない。次第に風景が山がちになってきた。

とろりとした小渓流の趣ある河川にぶつかると、直感が働きここでも竿を出す。ソガリにはやや小規模だが、コクチがいそうなゴロタが文字通りゴロゴロしている。小型のスピナーを放った3投目、ヒット! してきたのはカワムツ。婚姻色がだいぶ出始めている。これも2014年以来の再会。日本のカワムツと違うような、同じような…。サイズはホームの地元の川で釣れるものよりだいぶ大きい。というか、ライトタックルでのちょい投げ釣りにこれとない遊び相手だ。

ヒットが止まらず、20匹ほど釣ったところで竿をしまう。コクチの姿は見えず。明らかにこの先に峠越えが待っているのが道路の感じからわかっている。先を急ごう。それにしても、とりあえず入ったポイントで魚の顔を見ることができ上々の出だしだ。

峠越え。正確にログは取っていないけど、登坂距離3-4kmで獲得200mくらいだろうか? 重いバイクで登るのはしんどいけれど、マネージできるレベル。ほんとビンディングシューズ履いて来てよかった。標高が上がって来ているからか、道路脇の桜は3分咲き。地図でみていても、地形図と道の走り方で山がちだと一目でわかるエリアに入ってきた。

峠越えからのダウンヒルは自重が重いこともあって、思ったよりスピーディ。こんな時は、ディスクブレーキの恩恵をつとに感じる。目的地まで20kmを切ると精神的にも余裕が出て来て、もう一回くらい釣りをしてもいいかという気持ちになる。少し流れの速い、県道(?)沿いの川べりに入る。

良さそうなポイントだが、流れが強くてうまくミノーを流せない。おまけに夕方になって出て来た風もあって、ライトタックルには辛い状況。それでも粘りスピナーに変えた1投目、何かがヒット。先ほどのカワムツとは違う白っぽい反転を水中で確認したその瞬間、50cmくらいの大きな魚がかかった魚めがけて突進していくのが見えた! あの大きさの魚が見せる瞬発力には、ギクリとさせられる。結局大きな魚の正体はわからなかったが、なんとなくあれはソガリだったのではないかという気がしている。

釣れてきた魚を見てビックリ、見た目にはオイカワそのもの。やはり僕が日本で釣っていたサイズよりは大きく感じられ、これはコウライオイカワに違いない!と早とちりしたものの、どうやら韓国と日本のオイカワは同種、そしてルアーでたまに釣れてくることがあるようだ。ちなみに韓国にはタイプB、と呼ばれるオイカワがいるらしく、これは通常赤い目の上やヒレが黒い種類で近年別種として扱われるようになったらしい。BはブラックのBということだが、生息域が微妙に東にズレているので、タイプBではないよな…と写真を見返してみるとちゃんと目の上は赤かった。タイプBもいつかは釣ってみたい。

いずれにせよ、ルアーでオイカワを釣ったのは初めての経験。これもこの旅のひとつの成果として満足。初日は思いがけず3種もの魚に出会うことができた自転車で釣る韓国。どれも日本にいる魚なのはご愛嬌。却って、日本がかつて大陸と地続きだったことに思いを馳せるよい機会となったのだった。水辺に悠久の歴史を想えるのは、釣り師の特権でもある。

紫に空気が染まる夕刻マジックアワー、釣り人にとってはハッピーアワーだが、銀輪の旅人にとってはまずは宿をとることが先決。後ろ髪を引かれつつも、自転車にまたがればこの時間帯を走れる歓びが満ちてくる。幸福な気持ちでこの日の目的地、コチャンの町へと到着した。90kmほどの道のり、自らの足で動き、釣ったことへのこの満ち足りた気持ちよ。

宿の管理人、物腰の柔らかいヤンさんが出迎えてくれた。まさか外国人が自転車で現れると思ってもみなかったようで驚いていたが、それゆえに話も弾んだ。この旅で初めて翻訳アプリを介さない会話に、僕もなんだか人間性を取り戻したような気がした。奥様も笑顔の素敵な方で、以前に日本を旅行した時のことを話してくれた。

「何をしにこんな田舎へ?」の問いに対して、「自転車に乗って釣りをするためです。ソガリとコクチを釣りたくて」と答えるや否や、ヤンさんの表情が変わった。聞くと彼もまた子供の頃からの釣り人で、昨年からルアーフィッシングを始めたばかりだという。コクチは釣ったが、ソガリはまだだという。「私はビギナーです」とはにかみながらも、壁に貼られたこの地域の地図を指差しながら、それぞれの魚の好ポイントを教えてくれた。

聞くところによると、ソガリには実績ポイントがちゃんとあって、釣り師もそこに集まるのだという。この地域はソガリ釣りのメッカ的なところであるらしく、なんとなくgoogleストリートビューと雰囲気で決めたにしては僕のチョイスもいい線をいっていたのだと安心。コクチはこの辺の川ならどこにでもいるよ、とのこと。

「土曜日までいるので、よかったら一緒に釣りに行きましょう」とヤンさんに告げると、ちょっと戸惑ったような顔をされたが、「行けたら行きましょう」と言ってくれた。夜ご飯のオススメ場所を聞くと、近くに市場があってそこの食堂に寄るといい、とのこと。

荷物をほどく。とはいえ、極限まで絞り込んだバイクパッキングスタイルなので、下ろす荷物もそんなにない。パンクその他トラブルもなく無事に着いたことにまずはひと安心。数週間前まで名前も知らなかったような異国の山あいの町に、ひとりいるという事実が旅の最中にいることを実感させる。不安とか寂しいとかではなく、自分が日常の世界から切り離されながらも、もっと大きい世界とは繋がっているような、そんな遥かな思いは旅ならではだ。

夜の市場まで、町を散策しながら歩く。おそらく韓国人でも知らない人がいるような、小さい町。それでも当然ここには人の暮らしがあり、営みがあり、歴史がある。自分には知り得ないそんな町が世界中に星の数ほどもあるのだよな……と遥かな思いになるのは旅ならではだ(2回目)。

20:00をまわり、市場はもう閉まりかけていた。食堂も数店しかやっていない。オモニと目があったので、入った食堂は、この地域の特産らしい臓物料理の店だった。量もわからないので、軒先に積まれた臓物を、「コレとコレとアレ」と指差したら、1人前x3で供される臓物料理。おお……。ビールはhiteにcasのグラス。韓国にいるんだなぁ。

帰りしな、夜の川で少し竿を出すも何の反応もなし。町を流れる夜の川って、世界共通でだいたいカップルか酔っ払いしか歩いていない。どこの国の川かもう思い出せないけど、親密な男女と、大声で独り言を叫ぶ酔いどれに割って入って竿を振ったことが前にもあったなと思い返していた。

部屋へ帰ってくると、ヤンさんからメッセージが届いていた。「明日、12:00にこのカフェでランチしましょう」それはつまり、一緒に釣りに行きましょうというお誘いだ。

ep2へつづく