自転車で釣る韓国【ep0.5】 狙うサカナと旅の装備について、すったもんだの到着

初めてのバイク&フィッシング、『自転車で釣る〇〇』の舞台に選んだのはお隣、韓国。それはどうしても釣りたい魚が、この国にいるからだった。あとはせっかく行くのだから言葉の通じない、異国感を強く味わいたいという旅人根性もあってのこと。台湾と悩んだけれど、一昨年に訪れた釜山で、バスの乗り方もわからず右往左往した経験が、韓国行きへと向かわせた。

ソガリとコクチ

韓国でどうしても釣りたい魚は2種類。ソガリコクチだ。ソガリとは和名でコウライケツギョ、コクチはコウライオヤニラミということになる。初めてその姿を見たのは、自分が高校生の頃で、近所の熱帯魚屋でのことだった。その店の近くで働いていた父も魚好きで、足繁くその店を訪れていたのだが、ある日「ケツギョという変わった魚がいた」と夜ご飯の時に語った。数日後に僕もその店を訪ねると、日淡(=日本淡水魚)コーナーにその魚はいた。20cmほどの口の尖った魚は、どうやら臆病な性質らしく、物陰からこちらをひっそりと窺うように顔を覗かせていた。

コクチに関してはなにも知らなかったけれど、ある時、韓国にもオヤニラミがいると知った。かつて自室の水槽でオヤニラミを飼育していたことがあったので、自然と興味が湧いたのだが、驚くべきはその大きさ。日本のものよりも少し顔が突き出していて、サイズも25cmくらいになるという。問答無用の格好よさがあった。日本でもオヤニラミを釣りたくて釣りたくて機会をうかがっているのだけど(最近では都内にもいるらしい!)、韓国ではルアーフィッシングのターゲットということもあり、ソガリと合わせて狙うことにした。実際、現地の釣り人の投稿などを見ていると、ソガリ釣りの外道としてもコクチはよく釣れているようで、生息域・釣り方ともに共通でよさそうだ。

コクチに関しては数年前にソウル近郊の川で釣りをした時に、それらしい魚がルアーを追ってきたことがあったが、釣り上げるには至らず。今回は、リベンジマッチとなる。

ちなみに現地では「ックチ」みたいな発音でないと通じなかった。また、いろいろ調べているうちに、中国やヴェトナムにはまた別種のオヤニラミがいることも初めて知った。オヤニラミは属名はCoreopercaで、日本のオヤニラミは種小名をkawamebari、日本語の別名カワメバルにちなんでのもの。コクチはherziで、これはロシアの生物学者ソロモン・ヘルツェンシュタインにちなむ。このヘルツェンシュタインさん、ネット上ではあまり情報も出てこないのだけど、東アジアの魚類同定には大きな功績を残した人のようだ。アオガエルでおなじみのシュレーゲルとともに、19世紀の重要人物のようだが、伝記などがあればぜひ読んでみたい……。シュレーゲルは僕の一番好きなミュージアム、ウィーン自然史博物館でも働いていたことがあったそうで、また訪れたい気分が高まる。

脱線したけれど、東アジアのオヤニラミ(Coreoperca)には、ナンシオヤニラミ(whiteheadi)、チュウゴクオヤニラミ(liuli)などがいる模様。ナンシオヤニラミは和名があることから比較的日本でも知られているようで、中国・ヴェトナムに生息する最大25cmほどのオヤニラミ。模様や顔つきが異なるが、コクチに近いサイズ感。これは釣ってみたい……。ヨウコウオヤニラミという魚は、名前と違ってケツギョ属(Siniperca loona)ということだが、これも実物を見てみたい魚のひとつ。中国は広い。

どう釣る? ソガリとコクチ

この半年間、ひたすらにソガリとコクチの情報をネットを中心に収集。一番オンタイムなのはInstagramのハッシュタグで、それぞれソガリは쏘가리 、コクチは꺽지だが、これを見るにシャッド系のハードルアーと、ジグヘッドがほとんど。一部コクチはスピナーでの釣果も確認できる。

シャッドは得意な釣り方なのでいいとして、ジグヘッドの釣りはほとんどしたことがない。ワームはいつだってツネキチリグ、な世代。ジグヘッドの良さを知らずにいたのだけど、きびきびと早いテンポでのワーミングが要求されるであろう韓国の河の釣りにおいて、やはりジグヘッドを身につけておく必要はありそうだ。ということで、昨年からは東京湾のシーバスをジグヘッド縛りで挑戦している。

基本的にはシャッド、ミノー、スピナー、スプーン。そしてジグヘッド用に3.5inと2inのワームを準備。イメージとしてはイワナを釣るような渓流ルアーフィッシングと、少し早いテンポで泳がせるワーミング。この数年ちょくちょく訪れている川のスモールマウスバス釣りがかなり近い釣りになるだろう。ちなみに直前に川スモールをジグヘッド縛りで行ってみたものの、見事に撃沈……。やや不安は残る。

あと釣具屋に行って思ったのが、スピナーってなかなか選択肢がない。在庫豊富な釣具屋さんは本当に少ない。割と自分のルアーフィッシングではキーとなるルアーなのだが、ちょっと寂しい。昨年の台湾でもローカルの釣具屋には一切置いてなかったな。

自転車の準備

今回の移動の足でもあり、その移動自体が魅力的な手段である自転車−–の準備は、釣り道具と同じくらい、あるいはそれ以上に重要だ。もし途中で走行不能になったら、それは夢の魚が釣れないばかりか、旅のバッドエンドまでもを意味する。今回は一人旅ということで、リスクはすべて自分で負わねばならぬ。

だが、旅行の一切とともに動くバイク&フィッシュ『自転車で釣る〇〇』にあっては、当然のことながら必要なものの全てを運ぶことはできない。バイクに積める荷物の量には限界があるし、何より低予算のこの旅で利用するのはLCCだ。つまり、荷物の重量超過は肉体・体力的な問題でありながら、金銭的な問題も伴うのである。ぎりぎりまで荷物をそぎ落とし、かといってライドと釣りの快適さはある程度までは保持しなければいけない。そのラインの見極めに苦労した。苦労したし、出発するその瞬間でさえもこれで大丈夫だろうかという一抹の不安は拭えないままだった。

釣り道具と自転車を天秤にかけ、今回は自転車を優先した。ライドをなるべく快適にすることが、最終的な旅の満足度ひいては釣果にも影響すると踏んだのだ。今回の旅のために初めてキャリアとパニアバッグを搭載したのだけど、その状態で事前に走ることはできなかった。荷物を満載したおよそ20kgのバイクで100km近くを走るということが果たしてどれくらいシンドイのか基準を持てないまま出発した。最後まで悩んだけれど、シューズはかさばるのを覚悟で自転車専用のビンディングシューズを選んだ。つまりこれは、別途釣り用(&平時用)のシューズが必要となるということだ。

ウェアも悩んだ。特にビブショーツとジャージは、その気になればもっと軽量なアウトドアウェアで代用ができなくはない。けれど100kmライドを少なくとも2日予定していたので、ここは削らず持って行くことにした。結果として、この選択は正解だった。やはり100kmを走るようなライドでは、優れたパッドを持つビブショーツと、前傾姿勢に特化したサイクリングジャージの優位性は揺るぎない。

バイクはRodeo labsのグラベルロード、Flaaninal 4.1。タイヤはロングライドを想定してスリックのPanaracer Gravel Kingの32Cにした。これは2018年の伝説的ライド、ccjp200miles で実際に320kmを乗ってその性能は体感済み。ロードバイクライクな転がりのよさと、32Cの安定感のいいとこ採りだ。

パニアバッグはBrooksのBrick Lane Roll-up panniers。前の職場で使わなくなっていたものを譲り受けたものだが、ようやく日の目を見ることになった。ただ、どちらかというとシティライド向けのデザインなのと、さすがはブルックスといったところか、着脱性はややよくない。お洒落は我慢だ。スタイルは手間ひまの上に成り立つ。そういうことを教えてもらった気がした。ここには釣り道具、ダウンジャケット、ロック、iPad、着替え一式を入れ込んだ。

フレームバッグにはPorcelain RocketのLサイズを使用。ここに、HuercoのXT511-5がぎりぎり入る。加えてウェーダーもここに。パタゴニアのミドル・フォーク・パッカブルウェーダーは『自転車で釣る〇〇』の定番アイテムにしたいくらいの画期的アイテム。コンパクトになって、フレームバッグに十分収まる。フレームバッグにはまだスペースがあるが、旅の最中に生じた必要物や、すっと取り出したいものなどが出てくることを考えてあえてここは余地を残しておく。

輪行用バッグは、海外輪行の定番オーストリッチのOS-500。これで4〜5度ほどヨーロッパ、アメリカを含む海外輪行をしているがいまだ破損などのトラブルはなし。ただ底の部分が摩耗してきている。空港までは成田エクスプレスを使用して、最広報の席を予約することで収納スペースも問題なし。とりわけ都内を遠て自転車を空港まで運ぶなら、おとなしく特急かバス、クルマで行った方が精神衛生上よいかとおもう。

いざ、韓国へ

そんなこんなで、空港に到着。今回はJEJU AIRでテグへと飛ぶ。このJEJU AIR、自転車はなんとアップチャージ¥1000で運んでくれるというのだから恐れ入る。重量は15kgまで。ちなみにこれは一番安い超早割チケットだからで、もう2割ほど高い通常割引価格のチケットであれば20kgまでOK。今回は15kgということで、それでパッキングにあれでもないこれでもないと悩んだというわけ。

ただ仮に20kgまでにしてフルで詰めると、プラス手荷物3〜5kgだとして、ライド時にはバイク含め25kgほどになってしまう。これだと機動性も落ちそうだし、やはり軽快に15kgにまとめられるにこしたことはない。

バイクバッグに15kgぎりぎりまで荷物を詰め込んで、その他は取り外したパニアバッグを手荷物として持ち込んだ。手荷物検査で「これはどんな形のバッグですか?」と聞かれたけれど、左右一体型のパニアバッグだからそれもむべなるかな。というよりも、手で持ちにくくて結構大変…。こういう使い方を想定できていたら、バックパックにもなるパニアバッグはかなり有力アイテムだっただろうと思う。North st.のWoodward Convertibleはよさそうだ。

テグの空港には23:00ごろ到着。地方空港の趣きで、こじんまりと静かでバイクもすぐに出てきた。SIMの設定に手こずって空港のロビーにいたら、「もう閉めるから帰えんな」と職員の人にうながされる。24時間空港もあの深夜の気だるい感じがいいけど、こういう田舎の個人商店的な蛍の光が流れてきそうな雰囲気も悪くない。

SIMの設定ができないまま、タクシーで予約していた宿へ向かう。

ラブホテルからラブホテルへ

Bookin.comで予約したホテルの住所を見せても、タクシードライバーのおじさんは怪訝そうな顔をするばかり。ぶつぶつ言いながら発車したけれど、こちらの不安は募るばかり。首都ならいざ知れず、地方都市に行く際は、現地の言語で記された住所がないとわかってもらえない。これは今回の教訓だった。英語で記された住所はどうやら読みやすくはないようだ。

ほんとにここなのか? と何度もおじさんに聞かれながらも、出発前にストリートビューで確認していた通りの建物の前で停めてもらう。まぁなんていうか、典型的なラブホである。街のはずれにある安宿ということで、ある程度は覚悟はしていたけれど、実際にネオンがきらめく建物を前に入るのが躊躇われる。が、自転車を担いだまま例のビラビラをくぐって入館。

ここからが大変だった。予約をしているのですが、と窓口に。若い女の子が出てきて、あなたの名前がありません、と。そんなはずはない、Booking.comの地図はここを示しているんだ、と言っても、向こうは英語がわからず???となるばかり。ウームどうしたものかと思って、一度表に出て見ると予約したホテルと名前が違っている……。これは……違うホテルに来てしまったか。

女の子は韓国の人でもないようで、予約したホテル名と住所を見せても???となるばかり。で、彼女のスマホのgoogle翻訳のようなアプリで会話をするのだが、日本語の精度が微妙に悪くてうまくスマホに認識されない。このアプリ翻訳会話、昨年も台湾でしたのだが、何が難しいって、アプリが認識できる平易で簡潔な日本語にこちらの要求をまとめないといけないこと。意外とコレが厄介で、言い直しや沈黙などがあるとアプリは違うように解釈してしまう。

かすりあいながら続いた翻訳アプリ会話とここまでの流れで、女の子もこちらが違うホテルを予約していたこと、旅をしている一人身の客だということがわかったようで、それはもう親切そうにスマホに向かってなにやら話しかけている。翻訳アプリの画面には、

「うちに泊まるんじゃだめなんですか?」

とあって、不必要にどぎまぎした。。。うちとはもちろんこのホテルのことで他意はない。移動で疲れているし、夜は遅いしでもうこのラブホに泊まってもいいか、とも思えたのだが、そもそも他のホテルを予約しているし、キャンセルの連絡もSIMの設定もできていないしどうしたものかと思い、

「もう一度ホテルを探してみます。もし見つからなかったら戻って来ます」

となんだか雄壮な言葉を翻訳アプリに残して、また例のビラビラをかき分けて表へ出たのだった。郊外16:00の若いカップルを乗せた軽自動車になったような気分だったよ。

15kgのバイクバッグと、5kgくらいのパニアバッグ(すごく手に持ちにくい)を携えて夜中の大通りをよっこいしょと歩いていると、旅はまだ始まったばかりだというのに、ぼかぁこんなところで何をしているのかな……と思えてくる。この寂寥は、ある意味で旅の醍醐味ではあるが、まだロクに旅も始まっていない0.5日目みたいなところで感じるとは、恐れ入った韓国。

住所の札をしっかりと見極めると、予約したホテルは同じ通りにあれど、だいぶ番地は離れていた。google mapで地図検索をするとどういうわけか最初のホテルを指してしまうようで、誰が悪いというのではないけれど、このシチュエーションでどうしたら最初から正しいホテルにたどり着けたかということを考えながら20kgの気を紛らし、600mくらい歩いたところで、ようやく、それらしきホテルを発見。例のビラビラから入る。

……結局正しい方もラブホかい。

やさしいオモニとようやくの旅立ち

かなり古いしつらえの建物にも臆さず受付に話しかけると、おばあちゃんがスモークガラスの向こう側で起き上がり対応してくれた。こちらが日本人とわかると(私は日本人です、くらいは韓国語で言えるのだ)、また翻訳アプリ会話が始まった。でも、こっちはちゃんと予約もしているのでスムーズ。おばあちゃんが最後に、「わざわざこんなところを見つけ出してくれてありがとうございます」みたいなことを言うから、そしてそれがスマホのモニタ上で文字として表示されるものだから、なんだかぐっと来てしまったよ。ここにしてよかった、とさえ思ってしまった。旅心にオモニの優しが沁みる。

バイクも部屋に入れさしてもらえ、3Fまで自転車の形をしていない物体と荷物を運び上げるのは結構大変だったけれど、ようやくチェックイン。がらんと広い部屋に、ぽつんとダブルベッドが置いてある。どんな経緯があれば、こんな場末の宿に情事の場を求めるのか、この部屋に泊まった歴代の男女に聞いてみたいところではあった。

バイクは問題なく組み上がった。キャリアをつけて、なんだかんだと通常のロードバイクよりは手間がかかるけれど、どこも異常はないようで一安心。部屋にwifiが飛んでいてくれて、SIMの設定もなんとか完了して初日の夜を終えたのだった。なんだか長かった…。

翌朝、最終日にまた泊まるのでバイクバッグを置かせてほしいとオモニと交渉。快く受け取っていただいた。今日から3泊は目的地コチャンの宿で、最終日前日はまたここに泊まることになる。自転車も部屋に持ち込めるし、何より場所と使い方がわかっている宿に戻ってくるというのは精神的にもいい。オモニと一旦の別れを告げ、いよいよ出発ーーー

例のビラビラを今度は自転車でくぐった。いざ!

(つづく)